奈良の柿
実りの秋。
奈良の野山でも沢山の果実が実を結び、
私たちの食卓に彩りを添えてくれます。
とりわけ柿は奈良が全国でも有数の産地であり、
奈良の秋を代表する果実のひとつと言えるのではないでしょうか。
今日も多くの人に親しまれている正岡子規の句、
「柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺」は
秋の奈良にいかに柿がしっくりくるか、を感じさせてくれます。
明治28年10月、友人の夏目漱石の下宿で療養していた正岡子規は
松山を発って、東京に向かいました。その途中に須磨、大阪を経て、
奈良に立ち寄ったと言われています。
そして子規の最後の旅行先が奈良になりました。
柿が好物だったこと、短歌において万葉集を高く評価したことなども
正岡子規と奈良の縁を思わせます。
上記の句には「法隆寺の茶店に憩ひて」と前書きがあり、
法隆寺に立ち寄った後、茶屋で一服して柿を食べていると
法隆寺の鐘が鳴り、秋の訪れを感じるという情景が浮かび上がってきます。
柿が好物だったと伝えられる正岡子規は他にも奈良市街を
訪れたことを思わせる柿と奈良の句をいくつも残しています。
「晩鐘や寺の熟柿の落つる音」
「柿落ちて犬吠ゆる奈良の横町かな」
「柿赤く稲田みのれり塀の内」
「渋柿やあら壁つづく奈良の町」
また冒頭の句の柿は「御所柿」と考えられています。
奈良県御所市が原産の甘柿のルーツといわれる柿で
深い甘みと粘り気のある食感は「天然の羊羹」とも称され、
極上の「御所柿」は幕府や宮中にも献上されていたそうです。
早生の代表品種である「刀根早生(とねわせ)柿」は
奈良県天理市が原産の渋柿です。
渋柿の「平核無柿(ひらたねなしがき)」が突然変異したもので
果実の見た目や味は「平核無柿」とほぼ同様ですが、より早く食べ頃を迎えるため、
秋の味覚を一足先に運んでくれる柿として人気があります。
渋抜きをすることで楽しめるまったりとした風味が特徴です。
他にも奈良の西吉野地方だけに現存する「法蓮坊柿(ほうれんぼうがき)」は
渋が強いため、若い柿は防水・防腐効果のある柿渋として使われ、
熟柿は干柿になります。
同じく西吉野の特産品、「江戸柿」も渋柿で、肉厚なため
干し柿として食べられることが多いそうです。
柿の種類は1000種ほどあるそうですが、大半の800種ぐらい
が渋柿で、そのまま食することのできる甘柿は20種ほどだそうです。
柿を食する時に種類を調べてみるのも面白いかもしれません。
[鹿の舟]竈には、刀根早生柿が入荷しております。
奈良県吉野生まれの、甘く、みずみずしい柿です。
吉野の中山間地は、年間平均気温が15度ぐらいで、収穫期の温度差と
水はけのよい傾斜が、柿を育てるのに大変適した風土をもっています。
また柿の葉は奈良の特産品「柿の葉寿司」や「柿の葉茶」として親しまれています。
栄養豊かな奈良の秋の味覚を、ぜひご賞味下さい。