秋草と元興寺塔跡
夏の暑さから一変、お彼岸を過ぎ、終日涼やかで過ごしやすい日が続いています。
奈良町も、すっかり秋の装いになってきました。
[鹿の舟]から北へ徒歩4分のところにある「元興寺塔跡」。
こちらでも、秋草が境内を華やかに彩っています。
「元興寺」といえば、飛鳥寺を平城京に移築し今年で創建1300年と、
歴史のある寺院として広く知られています。
こちらの「塔跡」には、かつて元興寺の境内の一部であった五重の東塔がありましたが、
1451年の土一揆の際に、現在の本堂である「極楽坊」とは別の寺院として独立し、
観音堂・五重塔とともに「元興寺塔跡(観音堂)」となりました。
現在の「元興寺極楽坊」は真言律宗ですが、「元興寺塔跡」は華厳宗と、
宗派の違いからも別の寺院であったことが伺い知れます。
門をくぐると、秋の七草の一つ、萩の花が迎えてくれます。
極楽坊は萩の花の名所として広く知られていますが、
こちらの塔跡でも、白をはじめ、濃淡の美しい萩色の、
彩り豊かな花々を愉しむことのできる、奈良町の萩の名所です。
また、鮮紅色が印象的な彼岸花も。
彼岸花は別名を「曼殊沙華」と言い、
サンスクリット語で「天上に咲く花」という意味を持ちます。
よく、畦道などで咲いているのを見かけますが、
寺院の境内で咲く彼岸花は、より仏教的な風情を感じます。
また、かつて五重塔が建っていた跡である基壇と礎石を包み込むように、
黄色く色付いた桜葉が周囲を彩ります。
1859年の火災で、五重塔は焼失してしまいましたが、
かつては、興福寺の五重塔を上回るほどの高さの塔であったとされています。
この元興寺五重塔は奈良時代の技法で建てられていたため、
興福寺の五重塔を再建する際には技法が参考にされるなど、歴史的価値の高い建造物でした。
その時々の時代によって、町の風景は移り変わっていきましたが、
長く積み重ねられた元興寺の歴史に想いを馳せながらの、秋の奈良町散策もお勧めです。