夏の大和野菜
奈良もそろそろ梅雨に入り、日中は蒸し暑いことが多くなってきました。
野菜にとっては、大地を潤すめぐみの雨をたっぷり吸収して成長する、大切な季節です。
夏を代表する野菜のひとつ、茄子(なす) 。
正倉院文書や長屋王邸宅跡から出土した木簡に「奈須比・茄子」の記述があり、
既に奈良時代には茄子の栽培が行われていたと考えられています。
また、高位の人への贈り物として茄子の粕漬も作られていたことが分かっています。
室町時代には丸いものや長いものなど、品種が増え、
江戸時代には最も需要の多い野菜として、庶民の間に定着していきます。
縁起の良い初夢として「一・富士、二・鷹、三・茄子」があげられますが、
江戸時代、茄子は正月前後の初物がとても高価で、庶民には憧れの的であったため、
「茄子」が「成す(成功する) 」を意味するという一般的な説に加え、
徳川家に縁の地、駿河で高価とされたものから順に並んでいる、という説もあります。
その後、奈良で品種改良が加えられ、誕生したのが「大和丸なす」で
「大和の伝統野菜」のひとつです。
「大和の伝統野菜」とは、戦前から地元で栽培されている野菜で、
地域の歴史・文化を受け継いだ独特の栽培方法により、
「味・香り・形態・来歴」などに特徴を持つものを指します。
大和野菜が昔から豊富に栽培できたのには、奈良盆地の気候が関係しています。
盆地に特有の寒暖差の大きい気候、豊かな水と土壌をもち、
かつてここは米の反あたりの収穫量が日本一でした。
その高い農業技術を背景に、米に限らず、多種多様な作物が栽培されていて、
農作物が豊富だったのです。
さて、大和丸なすの約 9 割は水分です。体を冷やす作用があり、
体内の余分な熱をとると考えられていることから、暑い夏にぴったりの食材です。
つやつやとまんまるな姿は見ているだけで愛らしく、
中においしい水分をたっぷりと、たくわえているかのようです。
光沢と張りのある紫黒色とヘタにある太いトゲも特徴です。
肉質はきめ細かく、よくしまっているので煮崩れしにくく、
焼いてもしっかりした食感が残ります。
田楽や焼なすなど幅広い料理の食材に適しています。
また「ひもとうがらし」も古くから親しまれてきた、夏の「大和の伝統野菜」です。
[鹿の舟]の庭では夏の日差しを浴びて、日々成長しています。
辛い唐辛子と、しし唐が、かけ合わされて誕生したそうですが、辛味はほとんどなく、
皮のやわらかい甘みが特徴です。
「ひもとうがらしとちりめんじゃこの炊いたん」は大和の夏の郷土料理です。
丸ごとさっと炒めて、肉料理に添えるのも、この季節にぴったりです。
昨年の記事で登場した、半白きゅうりは今年も[鹿の舟]の庭ですくすくと育っています。
また、今年も「食堂 竈」では初夏から「大和丸なすの田楽 」がお昼の定食に加わっています。
旬の野菜を味わって、これからの季節も健やかに過ごしましょう。