率川
葉根蘰 今為る妹を うら若み
いざ率川の 音の清けさ
(はねかづら いまするいもを うらわかみ
いざいざかわの おとのさやけさ)
万葉集に、率川を詠んだ詩があります。
「羽根で作られた髪飾りを、つけたばかりの彼女が、
初々しく可愛いので、いざ(さあ)とこちらへ誘う、
その、いざ の名前を持つ率川の川音の清らかなことよ」
率川が当時の人の心を打つ清らかな川であったことが
この詩から想像できます。
「率川」は、「菩提川」の上流部分を呼び、春日山を源流としています。
春日大社の裏手から流れが続くため、御手洗川でもあります。
春日大社を抜けると、奈良公園の飛火野の芝生を割るように
西に向かって流れが続きます。
流れは鷺池、荒池に注がれ、猿沢池のすぐ脇を流れます。
その、猿沢池のそばの率川の中州では、
何体もの石仏が、舟型の台座に集められています。
「率川地蔵尊」という名のこの石仏は、
幕末期、河川工事を行った際に40体ほど見つかった無縁仏を
この場所に集め、お祀りしたようです。
地蔵尊の鮮やかな赤い前掛けは自治会の方を中心に作っておられ、
お盆の夜には地蔵尊の周りで灯籠流しが行われるなど、
地域の方に大切に守られています。
また、地蔵尊の背に立つと、
まるで橋の下から私たちを見守ってくれているようにも見えます。
その先は、暗渠(あんきょ)として川は地下に埋められ、
奈良市の中心市街地を流下し、佐保川に合流します。
近鉄奈良駅の近くには「率川神社」があり、
暗渠になる前は、神社のすぐ前を川が流れていました。
近隣を散策していると、道の脇に橋の名残なども見られ、
当時の面影を垣間見ることができます。
古い町並みの風情を楽しむのはもちろん、
土地や地形を辿るのも、奈良町巡りの楽しみの一つです。