うなぎの寝床
[鹿の舟]から北に歩いて2分の場所にある「ならまち格子の家」
江戸時代末から明治時代にかけての「ならまち」の町家を復元して建てられました。
うなぎの寝床と表現される、間口が狭く奥行きの長い造りが特徴です。
「ならまち」の町家は、切妻造平入り形式で間口いっぱいに
隣と接して建てられ、1階建てまたは2階建てで造られており、
隣り合う2軒の間では、背の高い家が屋根を差しかけ、
家と家の間に雨水が落ちないよう工夫されています。
入口手前から、
「みせの間」「中の間」「奥の間」と和室が続いており、
風が心地よく抜けるため、夏でも自然の風を感じながら過ごすことができます。
綺麗に仕上げられた内装は居心地が良く、ゆったりとした時間が流れます。
格子の家として親しまれる以前は、薬屋・化粧品屋・タバコ屋の時代もあり、
町家は人の入れ替わりが激しく、同じ商家が何代も続くことは珍しいようです。
「みせの間」は、商談や接客に利用されていました。
格子から光を十分に取り込むため、玄関扉は引き戸や開き戸ではなく、
上に向かって開け、留めています。
朝は柔らかな光が心地よく、夕暮れには陽が差し込み、
光と影のコントラストがとても綺麗です。
外から中の様子は見えにくくなっていますが、
中からは外を歩く人たちの雰囲気が感じられ、
外と繋がっているような気持ちになります。
「中の間」「奥の間」は、食事のための居間や寝室として利用されることが多いようですが、
仕切りの襖を開け放し、一つの大きな部屋として使うこともできます。
「中の間」にある箱階段は、狭い空間を有効に活用するための知恵が詰まっています。
箱階段から2階に上がると、梁を近くで眺められ、
室内の窓から土間の様子も伺えます。
「奥の間」を抜け、中庭の脇の渡り廊下にはお風呂やお手洗いがあり、
その先には「離れ」、奥には白壁が美しい「蔵」もあります。
「蔵」の前にある萩が可愛らしい花を咲かせています。
「離れ」は生活学校「つなぐ」開催時に、会場に活用させていただきました。
「離れ」から振り返り、中庭越しに眺める格子や差し込む光もとても風情があります。
土間部分は竈で煮炊きをするために天井が高く造られています。
立派な梁の更に上には明り取りの窓があり、
紐で障子や雨戸を開閉するようになっています。
天井には煙抜きがあり、竈の煙を外に抜けるように工夫されています。
こちらの土間には、東大寺二月堂の修二会で使用されたお松明が展示してあり、
間近で見ることができます。
また、土間から各部屋を見ると、部屋との間は建具で仕切られていますが、
「奥の間」との間にだけ壁があります。
湯気や煙の出る炊事場を壁の反対側に置くことで、
室内の環境を守るための工夫です。
町家の造りに目を向けると、自然を上手く取り込んだ設えに
生活の知恵や工夫が随所に感じられます。
一方、[鹿の舟] 繭は大正初期の住宅を活用しています。
町家の佇まいとは異なり、和洋折衷の趣ある造りになっています。
立派な梁や、天井や窓の仕舞いからは大工さんの技術を
垣間見ることができますので、建物自体もとても見応えがあります。
格子の家が再現している時代、
繭の建物が建てられた時代、
それぞれの時代に想いを馳せながら
奈良巡りを楽しんでみてはいかがでしょうか。