鹿の舟のいま

ぬるべの郷・曽爾村

暑かった夏が過ぎ、遠乗りにもよい季節になって参りました。

奈良市内から車で1時間半ほど南東に走ると、

一面にすすきが広がる高原で知られる曽爾村(そにむら)に辿り着きます。

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曽爾村は、奈良県の東北の端、三重県に隣接する静かで小さな村ですが、

山と谷が織りなす、雄々しく壮大な景観にめぐまれた土地でもあります。

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鎧岳

村の北端には紅葉の名所、垂直の岸壁が連なる小太郎岩があり、

村中央を縦に流れる曽爾川の西側には、

国の天然記念物にも指定されている、岩肌もあらわな鎧岳(よろいだけ)、

兜(かぶと)のような山容の兜岳、断崖絶壁の屏風岩が並びます。

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川を隔てて東側には、倶留尊山(くろそやま)、亀山、

古光山(こごやま)などの山々がなだらかに連なり、

雄大な自然美を見せています。

日本三百名山のひとつにも数えられるこの倶留尊山の

西麓に広がるのが曽爾高原です。

抜けるような大空、見渡す限りのすすきの野原――。

「天高き秋」を満喫するのにうってつけの山郷です。

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辺り一面のすすきの穂が、秋の陽射しを浴びてさやさやと

金色・銀色に輝く光景は、10月下旬から11月にかけて見られます。

この幻想的な景色を求めてたくさんの観光客が訪れます。

少し早目の、すすきの穂が出始めた9月頃に訪れるのも、

まだ人影も少なく、静かに大自然と対話することができてお薦めです。

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懐中電灯必携ですが、夜も散策することができます。

山影迫る広い草原から、満天の美しい星空を見上げれば、

時を遡って、地球や日本の古い歴史にも

思いを馳せたくなるかもしれません。

奇岩・奇峰の多いこの辺り一帯の珍しい地形は、

火山性の活動と河川の浸食によって、約1億3000万年前から、

気の遠くなるような長い年月をかけて形づくられてきたものだそうです。

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屏風岩

ぐっと下って、日本の史書に曽爾の地名が最初に現れるのは、

『古事記』下の巻の大雀命(おおさざきのみこと)=第16代仁徳天皇

の條とされています。

天皇は、弟の速総別王(はやぶさわけのみこ)を仲立ちに、

異母妹の女鳥王(めどりのみこ)を妻にしようとします。

ところが、女鳥王はこれを断り、仲人役の速総別王と結婚してしまいます。


憤った天皇は、女鳥王と速総別王を殺そうとするのですが、

二人は倉椅山(くらはしやま=現在の桜井市音羽山)を越え、

宇陀、そして曽爾へと落ち延びるのです。

伊勢へと抜ける手前の曽爾の地で、

ついに追っ手の手にかかり二人は命を落とします。

今井という集落に今も残る楯岡山古墳が、

二人の墓と伝わっています。

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その古墳のほど近くに鎮座する、

曽爾村八大字の氏神を祀る門僕神社(かどふさじんじゃ)は、

創建が第21代雄略天皇の御代という由緒ある古社です。

『延喜式』(927年)の神名帳にも門僕神社の記録が残ります。

毎年10月に行われる秋祭りでは、

300年の歴史を誇る有名な「曽爾の獅子舞」が奉納されます

(今秋は残念ながら中止となりました)。


この獅子舞の様子は、昨年の10月のイベント、

「[鹿の舟]からめぐる奈良 曽爾村編」の折にも、

写真展の中で紹介いたしました。

関連ワークショップとして 「曽爾の漆染め教室」も開催いたしました。


曽爾村は、日本の伝統工芸「漆塗り」発祥の地としても

知られています(「奈良の漆」)

平安後期の古辞書『伊呂波字類抄』には、第12代景行天皇の御代、

曽爾の郷に漆部造(ぬるべのみやつこ)という政庁を置いたのが

日本の漆塗りの始まりと紹介されています。

付近に自生する漆の木汁の働きを見出したのが、

宇陀の阿貴山に狩りに来ていた景行天皇の皇子、

あの〈倭(やまと)は 国のまほろば......〉の歌を詠んだ

悲劇の英雄ヤマトタケルであった、とも伝えています。


曽爾村が「ぬるべの郷」と呼ばれている由縁です。


曽爾高原周辺に湧き出る清らかでおいしい水は、

曽爾高原湧水群と呼ばれ、「平成の名水百選」に認定されました。

この名水で育まれた農産物は、

「食堂 竈」のグローサリーにも毎週金曜日に届きます。


夏のトマト、冬の大和寒熟ほうれん草など、

四季折々の曽爾の野菜は好評を博しています。

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他にも、屏風岩麓の長野という集落で作られる

刺身でもおいしい無農薬こんにゃくや田楽みそ、

小長尾という集落で実る柚子を加工した柚子搾りなど、

不定期ながら入荷があります。

雄大な曽爾の自然の恵みに、

まずは特産品から触れてみてはいかがでしょうか。

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