[鹿の舟]の庭便り 如月
薄曇りのある日、冬枯れの[鹿の舟]の庭であたたかな朱い色の実が
ひっそりと自己主張しているのを発見しました。
この2センチほどの愛らしい姿は「老爺柿(ろうやがき)」。
中国原産の渋柿で、食用ではなく観賞用として親しまれている植物だとか。
たわわに黄色い果実を実らせているのは「大和橘(やまとたちばな)」。
いま一般に食されている温州みかんの原種だそうです。
万葉集や古今和歌集に橘が詠まれた時代には、
きっとこのような小さな姿をしていたのでしょう。
着物の柄としてもお馴染みの、果実と葉っぱの意匠は
この姿を図案化したものなのですね。
「くるみの木」が15年にわたり運営して参りました「秋篠の森」の
「レストラン なず菜」は、「秋篠の森」閉店にともない[鹿の舟]に移転、
1月12日に「レストラン 囀」としてリニューアルオープンいたしました。
大切に育てて参りました美しい森の植物も、この度、
可能な限り一緒にお引っ越し。
[鹿の舟]の庭に移し植えましたので、一層、庭がにぎやかになりました。
森といえば樹木に目がゆきがちですが、
植生を変えないようにするには、下草も重要です。
苔やシダ、雑草まで「秋篠の森」から移植しました。
樹木にも草花にも、他ではなかなか見られないような珍しい種類もあります。
皆さまに楽しんでいただけるよう、できるだけ名前を表示するようにしています。
まだ移植して間もないため、どの植物も早く新しい土に馴染んで、
無事、根付いてくれるよう見守る毎日、
この庭がまた美しい森へと成長してゆくのが楽しみです。
さて、「観光案内所 繭」にも季節の植物が届きます。
ここ最近の顔ぶれは、庭で実っていた「大和橘」、
ルビー色の凝ったつくりの果実が面白い「美男葛/実葛(さねかずら)」、
シルエットまで美しい「辛夷(こぶし)」。
それぞれにかたちが個性的で見飽きません。
自然の創り出す造形には、私たちが思いもつかないような斬新さ、恰好よさ、
そしてあたたかみがあって感心させられます。
色使いもおしゃれではないでしょうか。
そんな魅力ある姿を眺めに[鹿の舟]にぜひお立ち寄りください。