柑橘のはじまり、奈良
本格的な冬到来で、あたたかさから離れがたい日々が続きます。
冷たい風が吹く一日は、こたつの中でゆっくりしていたい。
そして、そのこたつの上には、ぬくもりのある色のみかんがそっと置いてある。
なんとも冬らしい風景ですね。
この時期に、街中を歩いていると、みかんをよく見かけます。
甘く、皮が柔らかいので、手軽に食べられるみかんは、旬の時期を迎えています。
一口に柑橘類と言っても、その種類は本当に沢山あります。
これら爽やかな甘さが特徴の果実の始まりが、
実は奈良にあったということをご存じでしょうか。
時は、日本書紀の時代まで遡ります。
第十一代天皇である、垂仁(すいにん)天皇は、
田道間守(たじまもり)を使者として、不老長寿の秘薬を探すよう命じます。
それから彼は、海を渡り、
長い年月をかけ「非時香菓(ときじくのかぐのこのみ)」という実を見つけ出し、
日本へ戻りますが、その時既に天皇はご逝去されていました。
その後、田道間守は、この出来事の悲しみのあまり、
最期を迎えることとなってしまいます。
このとき田道間守が持ち帰った非時香菓が、橘と言われています。
時が経過し、田道間守が持ち帰った非時香菓は、
以降、奈良の中で蒔かれ、大切にされています。
さて、今私たちが食べている柑橘の果実は、ビタミン類など栄養豊富なうえ、
香りも心身を整えるのに良いとされ、現代生活でも広く取り入れられています。
薬効があるとして、古代の日本にもたらされたこともうなずけます。
「食堂 竈」にも、みかんを入荷しております。
こちらのみかんは、桜井市にある「森岡祥章観光果樹園」よりお届けいただいています。
三輪山の山すその古代道「山の辺の道」に位置するこちらでは、
毎年10月1日から11月30日まで(※今年は終了)、みかん狩りも楽しめます。
お伺いした日は、金柑などの様々な柑橘類の作業をされており、
温かな柑橘の色と、爽やかな香りに包まれていました。
「幼い頃に食べていた、この味でないと」と
代々愛される、こちらの「山の辺みかん」は、
甘み・酸味・コクのバランスが良いことが最大の特徴だそうです。
山の辺みかんをより知ってもらえるよう、
農業の知識を磨かれているはもちろんのこと、
その土地がどんな場所なのかといったことまで、熱心に学ばれていらっしゃる森岡さん。
農園のある、穴師の地の歴史についても教えてくださいました。
穴師にはかつて、先程ご紹介した、垂仁天皇の都があったそうです。
そのため、田道間守がもたらした非時香菓の苗をこの地で栽培し、
現在まで大切に伝え続けられてきたそうです。
農園から少し歩いた先にある「穴師坐兵主神社(あなしにいますひょうずじんじゃ)」で、
田道間守を神様として祀っておられると伺い、訪ねました。
穴師坐兵主神社は、
非常に歴史が古く、最高の格式の神社です。
創建は、第十代天皇の崇神(すじん)天皇の時代、倭姫命(やまとひめのみこと)が、
天皇の御膳の守護神をお祀りしたことが始まりです。
橘神社は、ご本殿から向かって右手奥に進んだ先にお祀りされおり、
発祥の地である穴師から、
日本中で、美味しく、栄養ある果実として愛されている柑橘を
一心に見守って下さっているように感じます。
※当エリアでの撮影許可を頂き、撮影しております。
宮司様の御厚意により、貴重な橘もお見せいただきました。
みかんの果実より小ぶりの実が、とても可愛らしいです。
穴師では、発祥の地としての誇りを持たれ、
それを守り続けていらっしゃる皆さまの熱意を、感じることができました。
森岡さんのみかんを扱う「食堂 竈」は、
12/26(水)から年末年始のお休みを頂き、1/2(水)より営業いたします。
太古からの想いを馳せながら、
あたたかみのあるその味を、
ぜひこの冬、味わってみてくださいね。