鹿の舟のいま

茶の湯の空間 床(とこ)

床(床の間)は和室空間の雰囲気を演出する場として昔から大切にされてきました。

また座敷の上座として尊ばれる位置、貴人席として空間に秩序をあたえる役割も
持っていました。

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いっぽう茶の湯の空間でも、床は重要な役割を果たしてきました。

始めは住居と同じく貴人の座であり、中国からの珍しい道具や貴重品を
飾る場であったそうですが、千利休が侘茶(わびちゃ)の精神を確立してからは、
亭主の客人に対する、もてなしの心を表現する場と考えられるようになりました。


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今日でも床に飾られることの多い掛け軸ですが、
茶の湯においては掛物(かけもの)とよばれます。

茶の湯の祖とされる奈良の村田珠光が墨蹟(ぼくせき)という、
禅僧による墨書きの書跡を茶席に飾ったのが、茶室に用いられるようになった
始まりだと言われています。

それまでは、掛け軸といえば、中国から渡ってきた水墨画などの絵画が
ほとんどでしたが、
珠光が一休宗純から授かった墨蹟を表装して、
はじめて四畳半に飾ったそうです。

それ以降、茶の湯では掛物は亭主から客人へのメッセージであったり、
茶会の主題が表現される場となっていきました。


千利休の時代から一輪の野の花が、床に主役として飾られるようになったのも、
自然の草花は人の心やその時々の時候を表すのにふさわしいという
日本人らしい感覚によるのかもしれません。

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また木そのものが持つ自然な表情や感触を大切にすることは茶室の空間、
茶の湯の建築が始まりであると言われています。

木や竹など自然の素材は建築空間に古より用いられていましたが、
さらに各種の材の様々な持ち味を引き出し、建築の美しさに生かしていく
という思想は茶室建築から日本建築に浸透していきました。

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茶室に身をゆだねていると現在も大切にされている日本建築の精神が
そこかしこに詰まっているような気がします。

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侘茶では茶室は小さくなり、それにともない床も小さくはなりましたが、
その小さな奥行きが茶室空間にゆとりを与え、客人が心地よく過ごせる
という効果もありました。

また、その小さく簡素で研ぎ澄まされた空間からは床の掛物の一行の筆跡、
一輪の花が存在感をもって、目前に浮かび上がってきます。


そこから感じ取られた主題やメッセージを通して、
主人と客人は心を通い合わせます。

茶の湯は身分や人種、宗教に関係のない平等な親和の場と言われています。

床はお茶席に集った人々を平等につなぎ、心を通わせるための大切な要素。
神聖とも感じさせる性格を持つようになったのはそのためかもしれません。

何枚も絵を飾るには小さすぎる空間でも、
季節ごとに様々な表情の装飾を楽しむことができる床の間。

ここにも季節の移ろいを愛しんできた先人たちの豊かな心や
生活の知恵を感じることができます。


そんな四季折々の室礼に触れながら、茶の湯の世界に親しんでみませんか。

[鹿の舟]繭では、通年のお茶稽古を中心とした
「奈良で茶の湯を愉しむ会」を開催しています。
ご興味のある方をお気軽に繭までお問合せ下さい。


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