奈良町紅葉めぐり
師走を迎え、早朝の凛とした空気に触れると、冬の訪れを肌で感じるようになりました。
しかし、日中はまだまだ心地良い陽気が続き、
天気の良い日には、モミジの紅葉・イチョウの黄葉と、
木々の生み出す色鮮やかな景色を楽しむ方の姿を見かけます。
「観光案内所 繭」でも、紅葉めぐりのお問合せが多く、
人気の名所と合わせて、通り道にある紅葉の美しい場所をお伝えし、
この時期ならではの奈良を、存分に楽しんでいただけるようにご案内しています。
例えば、紅葉の名所として知られる東大寺や奈良公園への散策を希望される方には、
「名勝旧大乗院庭園」「瑜伽(ゆうが)神社」「浮見堂」を巡る道を
一緒にご案内することがあります。
かつて、興福寺の門跡寺院「大乗院」の庭園として
存在していた「大乗院庭園」は、東西の2つの池を中心に、
とても丁寧に手入れのされた美しい日本庭園が広がります。
池に写る木々と空の色の重なりを楽しめます。
存在感のある「反り橋」と庭園を彩る紅葉が、秋色の芝生との色の重なりによって
かつて栄えていた頃の面影をほうふつとさせ、とても美しい色調を生みだしています。
「名勝大乗院庭園文化館」から、大きな窓ガラス越しに眺める庭園は、
額縁におさめられた風景絵画のように美しく、反り橋を渡るなど、
実際に庭園の中を散策することもできます。
そこから東を向くと、道向こうに鮮やかなイチョウの木が目に飛び込んできます。
細い路地に少し入ったところにある「瑜伽神社」のイチョウです。
この季節の「瑜伽神社」は、美しい紅葉に包まれ、境内の朱色と相まって
とても色鮮やかな景色が広がっています。
石段に積もった落ち葉に木漏れ日が重なり、一段ずつ上がるたび、
落ち葉を踏みしめる心地よい音が響きます。
瑜伽神社は、もとは飛鳥京の鎮守としてお祀りされていましたが、
平城遷都の際に、今のこちらに遷されました。
奈良町を代表する寺院の一つである元興寺も、飛鳥寺(法興寺)を移建してきており、
瑜伽神社は、当時「今宮」と呼ばれ、元興寺禅定院の鬼門鎮守の社として存在していました。
そのため、この山は「平城(なら)の飛鳥山」とも呼ばれていたそうです。
今では、西に位置する奈良ホテルの建つ鬼薗山と、天理街道で分断されていますが、
昔は、山はつながっており、瑜伽山城の跡でもありました。
平安時代、藤原氏の氏寺である興福寺の大乗院が創建され、
その守護神として篤く信仰されてきたことから「瑜伽神社」と呼ぶようになりました。
因みに、当時の大乗院は、今、先ほどご紹介した「名勝旧大乗院庭園」として、
多くの方に親しまれています。
歴史あるこの神社は、古くから桜と紅葉の名所としても知られています。
「春は又 花にとひこん 瑜伽の山 けふのもみぢの かへさ惜しみて」
江戸時代には、夕陽に映えるモミジの美しさに感動した方が、
ここから去るのが偲ばれる、春、桜の頃に花見をしにまたこの場所に来たい、
という思いを込め、歌が詠まれるほどでした。
石段の中腹には、この歌が刻まれた歌碑があります。
いつの時代も、自然の生み出す風景が、人々の心を打っていたようです。
本殿に手を合わせ振り返ると、紅葉と奈良の町並みが広がります。
石段を下りるたびに目に飛び込む、瓦屋根の連なる景色に、
古都らしさを感じます。
瑜伽神社を出発して東に向かい、石段を上ると天神社に到着します。
こちらも高台になっているため、古都奈良の眺めを楽しむことができます。
天神社を抜け、北へ進むと、池が広がり、「浮見堂」が目に飛び込んできます。
浮見堂越しに広がる御笠山の紅葉も風情があります。
他にも、奈良町には秋の見所がたくさん詰まっています。
歴史ある奈良町の秋めぐり、思い思いのコースを巡って楽しんでみてください。