夏の音風景
暦の上では「立秋」を迎え、秋の訪れを少しずつ感じる頃になりましたが、
まだまだ夏の勢いも衰えず、これからお盆の頃には奈良町周辺でも
夏を代表するお祭りや行事が控えています。
夏祭りのお囃子や夜店のざわめき、打ち上げ花火の体に響くどーん、という音や、
耳をすまして聞く線香花火の音は代表的な夏の音といえそうです。
他には、どんな夏の音が浮かんでくるでしょうか。
自然がいきいきと活動的な夏には、自然の中にも賑やかな音が沢山あるような気がします。
田んぼの蛙の大合唱、蝉の鳴き声、夕立前の雷の音、夏木立をわたる風の音、青田のそよぐ音・・・
中でも蝉の鳴き声は昔から多くの日本人になじみのある、夏の音のひとつと言えます。
日本各地で人々が大切にし、受け継いでいきたい音のある風景を
「日本の音風景100選」として環境省が公募で選んでいます。
その中にも「山寺の蝉(山形)」「ヒメハルセミ(千葉・新潟)」
「本多の森の蝉時雨(金沢)」が登場します。
また蝉の音風景は、文学上でも様々に表現されてきました。
鳴き声を雨にたとえた「蝉時雨(せみしぐれ)」。
現在では、時として暑さをあおるかのように感じられる激しい蝉の鳴き声を、
時雨の音によせた情緒ある言葉です。
森の中で無数の蝉の声が降り注ぐ様子が、風景として立ち上がってくるような気がします。
「閑かさや 岩にしみいる 蝉の声」 有名な松尾芭蕉の俳句からも、
静寂な空間が瞬時に浮かびあがり、うだるような暑さはしばし遠のきます。
言葉で夏の音風景をつくり、凉をとる。
先人の知恵には学ぶべき心が沢山あります。
炎暑の中でも、情緒ある言葉で気候を表現し、自然やその音を愛しむ、
豊かな日本語もまた受け継がれていくことを願います。