茶杓(ちゃしゃく)― 茶の湯の道具 其の三―
茶入れの抹茶をすくい、茶碗に移す匙のことを茶の湯では茶杓と呼びます。
昔は茶人が茶会のたびに手作りしており、使用も一会限りで
保存の習慣がなかったそうです。
千利休の時代に竹材が主流となり、茶杓を筒に入れて保存することや
「銘(めい)」をその筒に記すことが一般的になりました。
「銘」は茶杓の固有の名前であり、茶人の人柄やその時の心情を伝えるものでもあります。
たとえば、千利休の茶杓「泪(なみだ)」。
秀吉に切腹を命ぜられた利休が自ら削り、最後の茶会に用いました。
それを与えられた弟子の古田織部は黒漆塗りの筒を作り、
四角く窓をくり抜いて位牌のように拝んだといわれます。
筒に大切にしまい、「銘」を付けるようになったのは
茶杓にそれを削った茶人の精神や魂が宿ると考えたからではないでしょうか。
茶人にとっては刀のようなもの、と言われることもあります。
茶杓を削っていると刀を研いでいるような厳かな気持ちになるのかもしれません。
そう考えると我々も茶杓を拭き清める所作では引き締まった心持ちになりそうです。
また、「銘」は亭主と客人が心を通い合わせる大切な仲介役でもあります。
茶会では茶杓の拝見の後、正客が亭主に茶杓の作者や「銘」を尋ねる場面があります。
2月にふさわしい「銘」には薄氷(うすらい)、末黒野(すぐろの)、
草萌(くさもえ)など季節の移ろいを感じさせるものが数多くあります。
その「銘」が季節や茶事をうまく表現していると共感できたら、
愉しい時間はかけがえのないものになるでしょう。
見かけはシンプルな茶杓ですが、触ると楽しいお道具でもあります。
選んだ材質や、つくり方の工夫によって手へのなじみ方や使った時の感覚が異なります。
抹茶をすくう小さな匙にも味わいがあり、これも茶の湯の魅力のひとつかもしれません。
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