奈良の漆
奈良伝統工芸の一つである、奈良漆器。
繊細で華やかな螺鈿細工が特徴で、正倉院や春日大社に伝わる宝物から
その美しさは今にも伝えられています。
それを際立たせる艶やかな黒、漆についても奈良は深いゆかりがあります。
奈良県北東部に位置する曽爾村は古来より「ぬるべの郷」と呼ばれてきました。
漆職人の役所である塗部造(ぬるべのみやつこ)が漆の木が自生している
曽爾川一体に置かれていたことが古事記や日本書紀から伺えます。
日本の漆文化発祥の地として曽爾村では漆の木や職人の育成など
「ぬるべの郷」を復活させる試みが10年以上続いています。
漆は木から漆掻きという手法によって夏から秋にかけ採取され、精製されます。
10年以上育った漆の木肌にかんななどで掻き傷をつけ、
そこから湧き出る樹液をへらで掻きとり、採取します。
同じ木でも傷をつける場所やその日の気候で樹液の出方は異なります。
一本の木から、採取するため何か所にも傷をつけますが、
木の生き道を断たないように気を付けます。
漆掻き職人は木と対話しながら、傷の入れ方を工夫するそうです。
一掻きからとれる樹液はほんの数滴ですが、
掻きたての漆は白く、甘い香りがします。
長い年月をかけて育った樹木が蓄えた生命のしずく。
漆掻きはそれを時間をかけて大切に頂く技。
漆芸家がそれを丁寧に塗り重ね、研ぎ続けることで
螺鈿や蒔絵文様が漆黒の中から現れ、輝きます。
奈良漆器に宿る美しい手仕事もさらに輝いていくことを願います。