夏の元興寺
夏、灯りに包まれる元興寺。
元興寺では、今年も「地蔵会万灯供養」が行われ、
夏の夜を灯芯の灯りが柔らかく彩ります。
夕刻、風に揺らめく灯りが優しくお地蔵さまを照らします。
空が青く染まり始めると灯りが映え、
より境内が幻想的な雰囲気に包まれます。
この灯芯は、奈良県安堵町で作られ献納されています。
家内の繁栄と、子供たちの健やかな成長、世界の平和を地蔵菩薩に祈願し、
地蔵尊の供養、水塔婆供養、万灯供養が行われます。
昨日は盆踊りも催され、多くの方が踊りを楽しんでいました。
灯芯の灯りに照らされて、お地蔵さまの並ぶ脇に鬼の置物を何点か見かけます。
鬼にまつわる説話の残る元興寺。
昔、境内の鐘楼に、悪霊が変化した鬼が現れ、人々を悩ませていました。
その時に、雷の申し子といわれるほどの怪力を持つ童子が
鬼退治を申し出たと言われています。
この言い伝えから、邪悪な鬼を退治する雷を、
八雷神(やおいかづちのかみ)や、元興神(がごぜ)と
呼ぶことになったようです。
地域によっては、「がごじ(元興寺)」、「がごぜ(元興神)」を、
妖怪を指す言葉として使っていたり、
語源である元興寺を妖怪の元祖とする説もあるようです。
童子は鬼と戦いますが、なかなか決着がつかず、
勝負のつく前に夜が明けていきます。
夜明けに気付いた鬼が逃げ出したため、童子はその後を追いましたが、
鐘楼の北東にあたる辻子の辺りで鬼の姿を見失い、不審に思ったそうです。
「不審ヶ辻子町」という町名は、江戸時代に、
この言い伝えを元にして名付けられたと言われています。
奈良ホテルの建つ小高い丘を、鬼隠山や鬼棲山と呼び、
逃げた鬼が隠れていたと言われています。
ならまち大通りから不審ヶ辻町を北に抜ける通りには
立派な大木があり、目を楽しませてくれます。
他にも、奈良町には元興寺にまつわる町名が多数みられます。
元興寺にまつわる話を紐解くと、奈良町歩きがより面白く
感じられるのではないでしょうか。