奈良団扇
繊細な透かし彫りが美しい奈良団扇(ならうちわ)。
奈良を代表する伝統工芸品の1つです。
鹿や藤の花など奈良の風物、
正倉院の宝物から生まれた天平文様が巧みに配され、
贈り物としても重宝されています。
8世紀半ば、春日大社の神官が作った丈夫で実用的な
渋団扇が起源とされています。
当時は、魔除けの道具として中国から日本に伝わってきたようです。
他にも、室町時代には興福寺伍太院の僧が
奈良団扇を初めて作ったという説や、
祖先が甲冑師であった岩井善助が軍配団扇に似せて
奈良団扇を作ったという説もあります。
この頃から、元は神官の専業であった団扇作りが、
民間でも行われるようになり、
判じ絵や似顔絵を描いた団扇も出回り始めました。
「三笠山 藤は散りけり 禰宜(ねぎ)うちは」
江戸前期に詠まれた洛陽集の句。
この詩によって「禰宜うちわ」が広く知られるようになります。
江戸時代中期には透かし彫りが施されるようになり、
その技と風流な趣が評判となりました。
色鮮やかな奈良団扇は、白・茶・水色・黄・赤と5色あり、
これらの色の元を辿ると、陰陽五行説からきているそうです。
団扇は職人による手作業で作られ、13もの工程があります。
骨となる竹材のくせを直し、
1本の竹を60本から70本に細く割いていきます。
伊予紙・土佐紙などの和紙を染めて1日乾燥させた後、
図柄を型紙に写し、和紙の束と重ねて型を切り抜きます。
突き彫りといい、直角に切り込みを入れていきます。
和紙を20枚重ねているため、刃が少しでも斜めに入ってしまうと、
竹骨の両面に和紙を貼った際、絵柄にずれが生じるため、
とても慎重な作業だそうです。
突き彫りされた和紙は、近くで見てもずれがなく、
透かしがとてもきれいに表現されています。
糊付、乾燥させ筋を立てた後、
外周を裁断し、縁取りを施して完成となります。
季節に合わせて、和紙の染色や竹骨は冬に、
和紙の糊付と乾燥は初夏に行います。
軽くて細い竹材をたくさん骨組みに使うことで、よくしなり、
少しの仰ぎでも、ゆらぎのある心地良い風が作られます。
「観光案内所 繭」でも鮮やかな色の奈良団扇を展示、販売しております。
奈良団扇は丈夫で、使い込むことで竹の柄も手にすっとなじみます。
和紙の色あせが独特の風合いを生み、自分の色に染まっていくようです。
6月を迎え、これからの季節、
奈良団扇を片手に、奈良町を散策するのもお勧めです。