佐保川の桜並木
奈良盆地を流れる佐保川。
古くより人々に親しまれた河川で
平城京の東を流れていたことから万葉集の古歌に多く詠われています。
江戸時代には佐保川の水を使って麻布の晒(さら)しも行われ、
その白さや品質の高さは「奈良晒」として有名になりました。
そしてこの季節、川沿いを何キロにもわたって続く1000本以上の桜並木は圧巻です。
歩道の上にも覆いかぶさるように枝が張り出し、
まるで桜のトンネルを歩いているようです。
満開の花は川面にもせり出し、優美な水景を作っています。
その中でひときわ目立つのは、170歳以上の古木だと言われる川路桜です。
幕末の奈良奉行、川路聖謨(かわじとしあきら)によって植樹されました。
川路は奈良公園にも1000本以上の桜や楓の植樹活動を主導し、
市街地の景観づくりに尽力したと言われています。
善政をしき、人々に慕われた川路の桜が今も華やかに咲く様子は、
私たちを楽しませてくれます。
また、どこまでも続く、人の手によって植えられた桜の下を歩いていると、
日本人の桜に対する並々ならぬ思い入れを感じます。
花見といえば桜を思い浮かべ、
この時期は桜の開花状況が、連日メディアで取り上げられます。
古今和歌集にも
「世の中に たえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」
「世の中に桜がなかったなら、春を穏やかに過ごせるだろうに」
という在原業平(ありわらのなりひら)の歌があり、
平安時代の人々も桜の開花状況にそわそわしていた様子が目に浮かび、
日本人の桜への思いの深さを感じずにはいられません。
桜が日本人の思う美しさを体現しているからでしょうか。
たしかに一面に花が霞のように広がり、淡い「桜色」に染まる様子は幻想的な美しさで、
花がすぐに散っていく儚さや潔さも、日本の美意識に合っているとよく聞きます。
一方で、稲作文化と桜のつながりも大きいのではないでしょうか。
昔から桜の開花は田植えの始まりを意味し、
農作業の目安となる自然暦の役割を果たしていました。
花見は1000年以上前に農民が豊作を願って開いた宴が始まりだ、とも言われています。
「さくら」という名前の由来は、
春になると里にやってくる稲の神「サ」が憑依する座「クラ」だから
「サクラ」になったという説もあります。
神様は桜の花が咲いている間、そこに座っており、
花が散ると同時に作物に新たな命を吹き込むと考えられていたそうです。
日本人の心に深く結びついた桜。
短いからこそ美しい、桜の季節をお楽しみください。
佐保川沿いでは3月31日から4月8日までの夜、
提灯に灯りがともされ、夜桜のライトアップも行われます。
これから花が川面に散りはじめるのも美しい光景でしょう。
くるみの木一条店からも徒歩圏内ですので、お越しの際は
佐保川散策もあわせてお楽しみください。
また[鹿の舟]の庭も十月桜、豆桜、山桜など様々な桜に彩られ、
皆さんをお待ちしております。
こちらも奈良町散策の際にはぜひお立ち寄りください。